
営業と顧客は対等である!「あなたに売らなくても、他に買う客はいる」と言えていますか?
顧客にゴマをすり、「どうぞ買ってください」と頭を下げて回る。あることないこと並べたて、うまく口車にのせて商品を購入させる。そんな苦しくてイケてない営業スタイルを、見直してみませんか?
「営業と顧客は対等である」と言い切るのは、田端大学塾長の田端信太郎です。12年間営業に携わり、その辛さも喜びも経験してきた結果、やはり「営業」こそがビジネスの根幹であると断言します。
営業は人生の縮図である。
営業にネガティブなイメージを抱いている人は少なくありません。一方で、「モノを売る」という事柄自体がビジネスの基本であり、ゴールであることもまた事実。
仕事で結果を出したい、と思うのであれば、今「営業職」ではない人も絶対に避けては通れない道です。
オンラインサロン「田端大学 ブランド人学部」では2018年11月に『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?』(プレジデント社)を課題図書として、営業をテーマにした定例会を開催しました。
今回は、当時の田端信太郎の講義の中から一部を再構成してお届けします。
イケてる営業マンとイケてない営業マンの違い
田端:イケてる営業と、イケてない営業の大きな違いは、お客さんを観察しているかどうか。イケてない営業は、壊れたテープレコーダーのように、あらゆる人に対して、同じセールストークを繰り返しています。
イケてる営業ほど、お客さんに対して言うことが違います。相手をよく観察し、その結果に基づいてアドリブで営業トークを変えてるんです。
テキサスA&M大学でマーケティングを教えるデビッド・シマンスキ教授は、個人営業における宣言的知識の重要性を著した論文で、「競争が熾烈で、顧客の欲求を満たす商品が数多く存在する環境では、顧客に合わせて売り方を変えるセールスマンがライバルに勝てるでしょう」と解説している。
マジードの場合には、全てのお客に対して完璧な売り方を練るような時間も情報もない。
そこで、彼は持てる情報を使い、頭の中の経験というフィルターを通してそれを素早く整理し、最良と思われるアプローチを探し出す。
それはかなり進んだパターン認識のプロセスだ。
『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか』(2013年・プレジデント社)P45-46より引用
もちろん、事前にどういう話をしようかと考えて準備をしておくことは必要です。でも、そのマニュアルトークだけで終わっていてはだめ。
例えば1時間の商談で、30分自分が喋るとして、そのうちの何割が定型トークで、残りの何割が人によって変えているものなのかを、考えとして持っておくことは大事ですね。
やっぱり、お客さんとのコミュニケーション、キャッチボールなので、「一球目はこういう見送り方をされたので、二球目はこうしてみよう」というようにその場でいかに組み替えられるか。
お客さん一人ひとりに対して1on1の提案をする。その幅が広い人ほど、優れた営業だと思います。
「あなたに売らなくても、他に買う人はいる」
田端:一般的に、営業というのはすごく立場が弱くて、買う側が偉い。営業は「どうぞ買ってください」と頭を下げてお願いするというイメージがありますが、営業とお客さんは対等です。もっと駆け引きを楽しむくらいの心持ちで良いんじゃないですかね。
「もし、お客さんがやっぱり合わないから商品を返品したいと言えば、いつでも引き取るよ。ありがたいことですってお客さんには言うんだ。そのお客さんが持っていてくれたことで、品物の価値が上がるんだから。」
あるとき、ラバトからきたフランス人女性が琥珀を買い、数週間後にスイス人の友人とやってきて、返金を求めた。プラスチックを売りつけられたというのだ。
マジードは琥珀を受け取り、彼女が支払った三〇〇〇ユーロをカウンターの上に出して、スイス人の友達に宝石の由来を話し始めた。すばらくすると、彼女は金はいらないから琥珀を返してほしいという。
マジードは、以前より琥珀の値段が上がったから一二〇ユーロほど上乗せしてもらわないと、と告げた。彼女はしぶしぶ追加料金を支払った。
『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか』(2013年・プレジデント社)P43より引用
例えば、BtoBの営業をやっていると、強烈な値引き交渉にあうこともあります。お客さんに呼ばれて会社を訪問したら、「見積もりが高すぎる」と怒られたこともありました。
そんなときどうするか。
「いやぁ、そうですか。もし、この値段で買えないのであれば、僕は売れないです。すみません。では、さようなら。」
それくらい強気のスタンスでいくこともありました。もちろんそれで関係が切れるリスクもありますが、たいていお客さんのほうから「ちょっと待て。そこまでは言っていない。」と引き止められるんです。
毎回やるとやり過ぎですが、年に2~3回くらいやりましたね。こちらに「売らない自由」があることを明示できれば、営業とお客さんが一方的な関係ではなくなります。
すごく高圧的な態度をとられたりして、「営業って嫌だな」と卑屈になるくらいであれば、こういうやり方を選んでも良いと思います。
一人目の顧客として誰を選ぶか
田端:「誰が買ったものなのか」が次の営業にものすごく活きます。一人目の顧客、一番最初に倒すべき一番ピンを考えることはかなり大事です。
例えば、広告業界であれば、「このクライアントの案件を受注した=お墨付きをもらえた」と言われるような会社がいくつかあります。分かりやすい例でいうとコカ・コーラやP&Gなどです。
他の会社も、「コカ・コーラが使っている代理店なら安心だろう。良い仕事をしてくれるだろう。」と思いますよね。
また、LINEであれば、BtoCの個人向けのサービスです。ですので法人契約の営業に出向く際も、個人の方への認知が高い企業に積極的にアプローチをするわけです。
親指トムのロンドン巡業にあたって、イギリス人の懐に入るには上流階級に受け入れられるのが早道だとバーナムは考えた。
彼はイギリス貴族の邸宅が立ち並ぶメイフェアに豪邸を借りた。貴族たちを一人ずつ招いてこの秘蔵っ子を紹介しているうちに、やっと待ちに待った招待状を受け取った。ヴィクトリア女王が親指トムの興行を見たいというのだ。
親指トムは女王のプードルと格闘したり王族の目の前を走ったりひっくり返ったりして、宮殿で大受けした。
その後のエジプシャン・ホールでの興行は、大ヒットとなった。バーナムはイギリスの支配階級と貴族のお墨付きをうまく利用して、興行を売り込んだのである。
『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか』(2013年・プレジデント社)P81より引用
田端:さあ、例えば皆さんが女性向けのファッションコスメメディアを作ろうと思ったとき、まず落とすべきは、資生堂やカネボウでしょうか?それともシャネルやディオールでしょうか?
この順序を考えることが、大事なんです。
自分を一人の顧客として、騙し通す
田端:営業をするときに、大事になのが、
・自分に正直に行動する
・嘘をつかない
ということです。まず、自分自身がちゃんとその商品に惚れ込む。だからこそお客さんにも心から勧められます。お客さんだってちゃんと見てますから、営業が本当に良いと思っている商品なのかどうかは見抜かれます。
自分を一人の顧客として、まず徹底的に騙しとおす。自分すら騙せない人が他人を騙せるわけないですよ。営業で、自分が売っている商品を「俺は買わないな」と思っている人はまずその時点でだめです。
本気で買いたいと思える商品に変えたほうがいいですよ。僕はこれまで6回転職していますが、その場面や時代で「僕が嘘をつかずに心からおススメできるサービスや会社を求めて」きたからであるともいえます。
だから僕は、営業をしていて良心の呵責を感じたことはありません。
改めて、書籍のご紹介
さて、今回はここまでです。
この回の課題図書となった『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか』は、2020年4月に増刷され、その際に、帯に「田端大学課題図書に選定されました!」とコピーがつきました。
田端大学で課題図書に選んだ「ハーバードビジネススクールではなぜ営業を教えないのか?」が増刷され、帯に「田端大学課題図書に選定されました」と載ることに!こうやって書店の店頭などでも「田端大学」が、ビジネス書の販促に影響力のある場だと認知されるのは嬉しい!https://t.co/EAFH0TJnOm pic.twitter.com/ORs5oAT2kd
— 田端信太郎@田端大学 塾長 (@tabbata) May 10, 2020
田端大学の毎月の課題図書は、塾長である田端信太郎が、様々な分野の最高の一冊を吟味して選んでいる(そうな)ので、課題図書を読んでみるだけでもとても勉強になります。
なお、この本は会社員時代、新卒社員に配り輪読ゼミをやっていたくらいオススメの一冊だそうです。
課題図書を読むだけじゃなく、課題に挑戦して思考を深め、定例会で発表したい!というい方はぜひ入学もご検討ください。
文:但馬 薫