
営業担当、必死の生き残りをかけて。コロナ/テレワーク時代にTwitterやnoteでの有益情報発信者が圧勝する理由
インサイトフォース株式会社 代表取締役社長・山口義宏氏(以下、山口)と田端信太郎(以下、田端)が、「コロナ危機をサバイブする視点とは?」をテーマに対談。
テレワークが普及したwithコロナ、ポストコロナの世界で、営業マンが生き残り、活躍するために、自分自身や所属組織が、何の専門家なのかを定義付け、情報発信し、事前に信頼を得る重要性がより増してくる。
これまで、いかにセールストークを磨くか、いかに担当者と関係性を構築するか、と言う営業手法ばかりに着目していた私・高岸(@takagishitomoya)ですが、これからは、顧客と面談する前に、勝負が決まる時代なのだと痛感させられました。
2020年4月6日に開催された、オンラインサロン「田端大学 ブランド人学部」限定のイベントを、特別に一部だけ紹介します。
ビデオ会議が主流になると、優秀な個人による「勝者総取り」に?
田端:良くも悪くもビデオ会議がこんなにトリガーになることってないと思うんです。
日本、特に東京は狭いから、会いに行く文化があったんですけど、例えばアメリカはもともとテレカン(テレフォンカンファレンスの略称)の文化があり、企業の決算説明会とかでも、テレカンでしかやらない、とかね。
そういう感覚があったんですけど、いよいよ日本もそうなるだろうなと。
山口さんが音質の良いマイク買ったというのも含めて、例えばこれまでであれば、プレゼンするときは、ネクタイのVゾーンの色や、プレゼン資料の表紙デザインをみんな気を使うじゃないですか。
コンサルティング会社や証券会社など、単価の高いホワイトカラーは特に。
それと同じような意味でスピーカーやマイク、あるいは背景画像、格好とかを含めて、ビデオ会議においてどうやって、文字通りプレゼンテーションだから「Presence」存在感をどう出すかっていうところに気を使うようになる。
山口:すばらしいなと思ったのは、デザイン会社Takram代表の田川さんが、Takramの社員用に、zoomの背景壁紙を5、6バリエーション作って、Twitterで投稿されていた。
Takramの方とミーティングしたら、Zoomの背景に常にTakramの壁紙があるという話を聞いて、さすが対応早いなと。
田端:ビデオ会議って、小さなところで言うとそうなんですけど、実はもうちょっと大きな変化があると思っていて。
今まで、例えば民事再生に強い弁護士であれば、これまで大阪ではこの人、東京ではこの人、と、たぶん商圏ごとに決まっていたと思うんですよね。SUITSのハーヴィじゃないけど。
ところがビデオ会議中心になったら、大阪のクライアントだろうが、やっぱり日本No.1のあの人に頼みたい、となってくる。
医師会がオンライン診療反対してたじゃないですか。今回コロナの件があってついに押し切られちゃったんだけど、反対理由を聞いていたら、本音のところは、遠隔診療するとイケてる医者に患者が殺到して、中の上くらいより下は全部沈没することを懸念してると聞いた。
山口:ネットサービスと一緒ですよね。winner takes all(勝者総取り)になっちゃうっていう。
田端:本音としては分かる。医者の場合は、ギャラの変化がないから、余計そうなんですよね。この流れはホワイトカラーでも出るだろうな。
山口:それはありますね。
田端:僕なんかもう、「今後打ち合わせは、ビデオ会議しかしません」と言っても良いかな、くらいに思っています。
<中略>
すでに信頼関係がある場合はオンラインで問題ない。では、初対面の場合はどうしたら?
山口:田端さんのおっしゃる、距離の概念が無くなるというのは、コロナによって急速にZoomのようなビデオミーティング機会が増え、これはビジネスパーソンの限られた時間を、距離の概念から解き放つことで、機会を拡げますよね。
まさに田端さんが、北海道から沖縄まで、フライトしなくても顧問になれる、という事例と一緒で、外出できないとなった時に、個人に紐付いた「信頼」と「能力」によって、生産性の差がすごく開くんじゃないかって感じますね。
田端:僕と山口さんは、散々リアルで会ったこともあるじゃないですか。同じ社内で、今リモート勤務してる人同士も、一回も会ったことないって人はいない。
だけど新入社員の話が複雑なのは、同じ会社なんだけど、会ったことない奴と、これからリモートだけでどうやって一緒に出来んのか、みたいなところ。
クライアントだって、良いって聞いてるけどいきなり1発目からビデオ会議で出てきた人が、金髪の変な奴だったら、この人で良いのかな、と不安になったりしないのか、という問題はある。
僕も散々、弁護士事務所などに行ったことがありますけど、一流弁護士事務所ほど、すごいオフィス構えているじゃないですか。本当に、SUITSみたいな。
山口:金融やコンサルもそうですが、無形サービスになるほど、高級オフィスと、高級スーツが、サービスの信頼感の表現という面がありますよね。
田端:それは、僕らこんな高い家賃払えるような人たちなんですよ、ということを、受付嬢やテーブルなども含め表現しているんだけど、それをどうやったらビデオ会議で表現出来るのかなぁと思う。
山口:レストランのお皿と一緒ですよね。同じ料理を、高くする演出というかね。
田端:これは実は、裏テーマで、弁護士事務所だろうが、レストランだろうが、なんでも共通している。
例えば一流レストランから、Uber Eats取って、家でメシ食ってるのと、一流レストランで食べるのって、違いは何なんだっけ、とか。
都心の六本木ヒルズや、泉ガーデンの弁護士のすごいオフィスで、受付嬢がお茶入れてくれて、町を見下ろしながら打ち合わせするのと、zoomで打ち合わせするのと、何が本質的に違うんでしたっけ?というところが、まだ因数分解が完全にできてない。
山口:僕も感じるのは、2、3月あたりから通勤自粛が始まって、Zoomの波が始まったじゃないですか。
そうしたら、意外とイケるという声が出た。これまで対面で会っていた、信頼資産がある人たちとのビデオミーティングは、問題無かった。
先ほど田端さんが言ったみたいに、4月からの新入社員は、まだ信頼関係が築けていない人なので、オンラインでどうやって信頼関係を築けるのか。これはいま、多くの会社が、必死に模索してますよね。
解決策:コンテンツ(書籍、note、SNS等)で事前に信頼関係を作る
山口:マーケティングの話に移ると、お客さんをどう取るのか?という課題が、まさにこの話。実感してヒントだと思った出来事があって。
私の会社のインサイトフォースには、毎週一定数の新規問い合わせの案件引き合いがあるのですが、ある大手企業の方から、「サービスの説明が聞きたいです」と。
ただ、先方も出勤してないので、自宅同士でZoomでミーティングをお願いしますと、言われたんですよ。
しかもお相手の方は、カメラオフで画面は映さないで「音声だけで失礼します」と言われて。はじめましての人とZoomで、うちの会社の自己紹介と、サービスの内容を説明したんです。
でも、その方はすでに、私の書いた本を読んでくれて、信頼してくれている状態から、問い合わせが始まっているので、商談を進めるうえで、なんの支障もないんですよね。
あっ、こういうことかと。すでに問い合わせ発生前の段階で信頼関係を作るものは何かというと、「コンテンツ」なんだなと実感したんですよね。
これまでは、対面で会ったときの挨拶や、表情の印象の良さから、信頼を作っていたやり方が、記事でも、書籍でも、なんでも良いんですけど、問い合わせ発生までに信頼関係が築けるかどうかに取って代わるなと。
特にBtoBのマーケティングとセールスの力点が変わると感じましたね。
田端:クライアントから山口さんへの信頼もだし、逆に山口さんがなにか言った時に、本を読んでくれていると、プロトコルとして、例えばブランドとか、マーケティングとか、CRMと言った時に、齟齬がなく概念が噛み合っていると分かった上で会話できる。
これが、顔も見えなくて、かつ、共通前提も無いとなると、抽象概念を話した時に、相手がどれくらい分かっているのかなって不安になる。
山口:人から人にサービスして、お金をチャージする対面のサービス業って、どうしても性格の相性もあるじゃないですか。それはお互いにね。
馬が合う合わないって、僕はけっこう大事だと思っていて、もちろんプライベートで仲良くなる必要はないし、プロとして仕事ができる信頼関係が築ければいいんですけど、その仕事の方針やコミュニケーションのトンマナの好き嫌いって、確実に人間同士はあるはず。
事前にコンテンツや何かで知っておいてもらうと、相手からはある程度予測されている状態で、相性の良い可能性が高い人にスクリーニングされてから問い合わせがくるようになる。
そもそもコンテンツに触れてくれていたら、言ってることが納得いかないとか、言い方がいけ好かないと感じる人は、来ないじゃないですか。
だから、事前に自分や会社を知っておいてもらうコンテンツが、世に出ている重要性って、非対面が前提の世の中になったら、重要度が上がるなというのは、この1ヶ月、自分が実際に恩恵を受けて実感しましたね。
ビジネスモデル次第なんですけど、BtoBの高額商材は、基本的に対面で営業して、お客さんとコミュニケーションすることをやっていたと思います。
でも、ボヘカラさんがTwitterで、「とにかくいいからお前ら1日何回客に会って来い、みたいな、対面接点で握って来い系の営業部長は厳しくなるんじゃないか」という主旨の発信をされていて、本当にそうだなって思いました。
わざわざZoomするって、明確な用件が無いと、しないじゃないですか。デジタル上では、とりあえず近くに来たので挨拶……という概念が死滅する。
営業マンはオフィスにいるな!外でもサボるな!的な営業部長、何も出来ずに呆然としてそうです。
— ボヘカラ (@BOHE_BABE) March 28, 2020
対面でのハイタッチなヒューマンスキルで人間関係を構築することや、相手の懐に入り込むのがうまかった営業マンの価値が相対的に下がる。
これからは、BtoBのマーケと言おうが、営業と言おうが、とにかくクオリティの高い、信頼されるコンテンツを作れる、コンテンツメーカーになれる会社や個人というのは、圧倒的に有利だなって思いましたね。
株式会社ベイジ・枌谷氏に見る、コンテンツメーカーの強さ
田端:少し違う角度からも言うと、ジェネラルに手配師的な、電通・博報堂の昔からいる、気の利いてる営業みたいな世界よりは、
「パッケージデザインだったらこの人」「CMだったらこの人」
というような、職人でスコープは狭いけど、その世界では一点突破で強い、みたいな人の方が、こういう状況、あるいはこれからの状況ではより向いてくるんですよね。
山口:相対的に説明しやすいですよね。ローコンテクストというか、おっしゃる手配師みたいな人って、会ってじんわり信頼関係を得ないと、なかなか伝わりにくいものがある。
専門性の領域が明確で、サービスのスコープが明確なモノのコンテンツが作れる人っていうのは、すごく仕事が増えるんだろうという実感はありますね。
うち、BtoB企業のクライアントが4割くらいいるんですけど、BtoBのクライアントさんは何をやっているかというと、いま基本的にみんな営業に行けないので、時間を持て余しているんですよね。
そこで何をやってるかというと、「とにかくこれはすごい!」という圧倒的にクオリティの高いコンテンツを作ろうと仕込んでいます。
田端:カンファレンスもできないしね。「これはすごい!」というコンテンツって、事例集のレポートとか?
山口:事例集でも良いですし、書籍でも良いですし、ホワイトペーパーも良いし、別にブログでも良いわけです。
それを予めやっていた方って誰かなと考えると、BtoBマーケティングに強いweb制作会社ベイジの枌谷さんという方がいらっしゃって。
枌谷さんのコンテンツは、当然BtoBのマニアックなコンテンツだから、普通の消費者の間でバズる訳ではない。
でも、出すたびに、「ここまでのノウハウをこれだけ形式化して、無料公開するんだ」と、BtoBなりマーケ業界の人たちが驚き、相当数反応しているんです。
単にリーチの広さを超えた、反応の熱さや、リスペクトみたいなものが生まれているのを感じます。
枌谷さんみたいなコンテンツ作れるタイプの方が、これからの時代、非常に強いだろうなと思っています。
<中略>
山口:そういう意味で言うと、本当にその個人で名を立てて稼ごうという人は、商談がはじまる前に先に認知され、期待されるようなブランド人化しろってことじゃないですかね。
田端:ブランド人という言葉にアレルギーがある人は、ブランド人という言葉を傍に置いても良いんだけど。
山口さんが言うように、ビデオ会議で「初めまして、こんにちは」の前に、どれくらい相手の頭の中に、ある種のperceptionを植え付けられておくかってことだと思うんですよね。
武勇伝を語る営業の時代は終わる。
山口:対面営業ができた世界だと、スーパー営業マンのコミュニケーションスキルで、ゼロから信頼や機会をつくるチャンスがあったじゃないですか。
田端:10回くらい受付に通って、受付嬢も根負けして、
「社長、なんかいつも来る杉本さんっていう人がいるんですけど」って言って、「しょうがねぇなぁ、じゃあどんな奴なんだ」
と言うような武勇伝は、営業の世界では必ずある。
でもこれから先は、こうした武勇伝は、牧歌的な竹槍の世界だったなと。
山口:変わっちゃうんでしょうね。そもそもリモートワークが増えたら、会社に出向いても相手がいない。接近戦コミュニケーション専門の営業パーソンは、チャンスが減りますよね。
もちろんZoomみたいなビデオ会議の動画も音声も、品質が良くなって、もしかしたら動画越しの初対面でも「この人と仕事したい」って口説けるような対面に近いレベルで伝わる日はやってくるのかもしれないですけど。
田端:オートロックのマンションが増えて、新聞の訪問販売がやりにくくなって、新聞の部数がじわじわ減ることと似ている。
山口:そうですね。
田端:企業もそうなってきて、飛び込み営業とかはあり得ないですよ、このコロナ時代には。
山口:そうですね、コロナがある程度収束しても、衛生観念はだいぶ変わり、少なくともこれまでと同じに戻ることはなさそうですね。
田端大学で、過去イベントの動画も見放題!
対談内容はまだまだ盛りだくさん。
・テレワークが普及した時代における評価方法は、これまでの「プロセス評価」は難しくなり、「成果主義的な評価」へシフトしていく
・評価方法がシフトしていく中で、どんな働き方があるのか? 元USJ森岡氏を事例に
・個人の生産性の格差が広がる時代の中で、一度、属する企業組織の力を借りずに、一個人として世の中からどう評価されるのか、数字的な評価を受けるチャレンジをすべき
などなど。田端大学に入学すると、過去のイベント動画もチェックできます。ぜひ、ご参加ください。
(執筆/高岸 朋矢)