
田端信太郎のマジレスに立ち向かえ!「既存業界のねじれ」を突く、新規事業プレゼン大会
田端信太郎の運営するオンラインサロン「田端大学」では、月に1回、毎度違ったお題をもとに定例会が行なわれています。
2020年7月定例会のお題は「大前研一『企業参謀』を読み、本質的な価値を捉えた新規事業を考える」。
ビジネスホテルから自動車ディーラー、カルボナーラまで、振り幅の大きな新規事業プレゼン大会となった、2020年7月の定例会の様子をレポートします。
課題図書:世界中のビジネススクールで使われている名著『企業参謀』(大前研一)
2020年7月の定例会、田端信太郎より提示された課題図書は『企業参謀 戦略的思考とは何か』。
マッキンゼーの日本支社長やアジア太平洋地区会長を務め、現在は経営コンサルタントとして活躍されている大前研一さんが、1975年に出版した初めての著書です。
全ビジネスパーソンが身につけておくべき「戦略的思考」とは何か、どのように活用するかなど、大前さんの発想法、思考法が赤裸々に綴られた1冊。
発売と同時にベストセラーとなり、累計部数は50万部にものぼります。
日本国内だけでなく、「Mindset of Strategist」というタイトルで翻訳され、世界中のビジネススクールや、企業研修としても用いられている名著です。
今回、課題図書『企業参謀 戦略的思考とは何か』を読んだ上で、塾生たちに課せられたお題は、
することでした。
それぞれの業界が、消費者に対して提供する、「本質的価値」とは。
【1人目】「日数」ではなく「時間」単位で課金するビジネスホテル
1人目の発表者は、今村裕司さん。
今村裕司:普段は水泳専門のネット通販や、水泳関連の情報発信、通販サイトの支援などを中心に活動。
Twitterアカウント https://twitter.com/mihoro_yuji
岐阜県の在住で、コロナ前は月に1〜2回、東京や大阪への出張があり、ビジネスホテルを利用する頻度も高かったという今村さんが目をつけたのは、「ビジネスホテル」です。
提案は、ビジネスホテルを「宿泊日数」ではなく「滞在時間」での課金モデルに変更し、収益を最大化させる新業態。
ビジネスホテルの本質的価値を、
「都心や駅前の優れた立地で、個室(1人〜少人数)で過ごせる居場所」
と定義づけ、テレワークや仮眠などの、ビジネスパーソンの日中のニーズにも応えることができるのではないかという観点からのプレゼンでした。
10分間のプレゼンの終了後は、質疑応答タイムです。
塾長・田端信太郎から最初の議論として投げられた質問は、以下の2点。
1. 時間貸しをして、本当に稼働率や収益は最大化されるのか?
2. ラブホテルとビジネスホテルの本質的な違いは何か?
先に2つ目の質問の答えを書いてしまうと、ラブホテルとビジネスホテルの本質的な違いは「予約の有無」です。
この質問に田端信太郎が込めた意図は、「時間単位での貸し出しするなら、時間帯によって単価を変動させよ」というメッセージでした。
仮に朝から夜まで、1日中どの時間帯でも同じ値段を設定していれば、「深夜から明け方」までの時間帯に、顧客が集中する可能性があります。
なぜならば、深夜から明け方にかけての時間帯は、終電後の移動をする人たちが「割増料金のタクシー」との比較を始めるからです。
そこでビジネスホテルを選択した人たちが、先に「深夜から明け方」までの予約をしてしまうと、「宿泊日数」での課金体系時には使ってもらっていたかもしれない「夜の早い時間帯」や「朝の遅い時間帯」などが、結果的に空室になってしまうかもしれません。
田端信太郎は、続けて「逆に時間単位の料金をダイナミックに変えないで、ビジネスを成立させているホテルの例」として、シンガポール・チャンギ国際空港や香港国際空港にあるトランジットホテルを挙げました。
それらのホテルが、なぜ高い稼働率を維持しているのかというと、グローバルなハブ空港として1日中乗客が出入りしているからです。
深夜や明け方、終電や始発といった概念が、それらの空港内にはそもそも存在しないので、時間帯ごとの料金を調整しなくても、ビジネスとして成立します。
一通りのフィードバックを終えたあと、「なにか追加の説明や反論などはありますか?」という田端信太郎からの投げかけに対して「いや、ないです...」と少し撃沈した様子の今村さん。
「マクロ的に見ればいけるかなとは思うんだけど、時間帯ごとの料金を含めて、もうちょっと解像度を高ければ良かったかなあ。少し詰めが甘かった」
という、1人目から早速飛び出した田端信太郎のマジレスで、今村さんのプレゼンは幕を閉じました。
【2人目】「販売」を切り捨て「サービス」に特化した自動車ディーラー
2人目の発表者は、中来田祥平さん。
中来田祥平:「クルマのサブスク」サービスを展開するKINTOのマーケティング部主任。某自動車メーカー、webの広告代理店を経て、某ゲームメーカーでのデジタルマーケティングに従事したのち、現職。
Twitterアカウント:https://twitter.com/game_monster_sn
中来田さんが目をつけたのは、「自動車ディーラー」。一言で言うと、自動車の販売代理店です。
中来田さんの提案する、自動車ディーラーの新しいビジネスモデルは、「『販売』は自動車メーカーのビジネスモデルに組み込み、ディーラーは購入後の『アフターサービス』のみに特化させる」という内容。
中来田さんは、現在の自動車ディーラーについて「周辺サービスを含め、極めて複雑かつ過剰な価値提供になっている」と指摘します。
具体的には、不必要なオプションの提供や、豪華な納車式の演出など、自動車ディーラーの提供するべき本質的な価値との乖離が大きいサービスが、この業界にはびこっているとのこと。
ディーラーの本質的な価値とは、その利益構造からも、本来は自動車購入後のメンテナンスを中心とした、アフターサービスにあるはず。
提供サービスの選択と集中による、粗利率の向上なども訴えた中来田さんでしたが、プレゼン内容に対してマジレスをするのは、田端信太郎だけではありません。
聴衆として参加していた、他の田端大学メンバーから届いたのは、
「アフターサービスだけに特化したディーラーって、オートバックス(=カー用品の販売や交換サービスなどを行なうフランチャイズ店舗)との違いは何になるんですか?」
という鋭い質問。
それに対して中来田さんは、「ディーラーはメーカーからの直接的な技術やノウハウの共有をしてもらっているので、テクニカルな内容の相談にも対応できる」と返します。
しかし、その回答を聞いた田端信太郎の「そういうテクニカルな内容の相談がゼロでないことは認めるけど、実際の比率としてはどれくらいなの?」という追撃に対しては「現状、ほぼないです」と答えました。
止むことのない、マジレスの嵐。
ひるまずに発表を続ける中来田さんは「ただ、今後は電気自動車が普及していくなかで、技術的な情報を持っていることの価値は、高まってくると思います」と切り返します。
しかし、それに対しても田端信太郎からの「電気自動車だと、構成要素の大半がソフトウェアだから、メンテナンスやアップデートはもっと簡単になっていくんじゃないの?」という忌憚のない意見。
提案全体に対するフィードバックとしては、
「やることの方向性の理屈としては正しいと思う。ただ、これをいざ現実世界でやろうとすると、理屈以外の感情とか政治とかの他の要素が大きく影響しそうで、誰がどう旗振り役になって進めるのかが少し見えてこない」
との言葉を送りました。
日本のGDP全体の約10%を担っているとまで言われる自動車業界は、その分ステークホルダーの数も多く、これだけの大改革をするためには、かなり大きな実行力が必要になりそうです。
【3人目】最小の「廃棄ロス」「オペレーション費用」で勝負するカルボナーラ専門店
3人目の発表者は、新井勇作さん。
新井勇作:複業創造家。株式会社INFINITY AGENTSの創業者。ONE PHOTOの代表。複数の本業を持つ「®DUAL WORK」を実践。
Twitterアカウント:https://twitter.com/arai_yusaku
新井さんが目をつけたのは、飲食業界です。
提案する新しい事業構想は、「立ち食いのカルボナーラ専門店」。
まず飲食店の本質的な価値は、「旨い」「早い」「安い」と定義しました。(ブランド人を目指す田端大学での新規事業プレゼンにおいて、安さ勝負に出るのは違うよねということで、今回は「ちょっと安い」へとアレンジ)
「旨い」「安い」「ちょっと安い」以外の提供価値で、既存の飲食店にある過剰なコストは、
・廃棄ロス
・オペレーション費用(人件費・広告宣伝費)
であると分析し、ここの改善こそが、本質的な価値の提供に根ざした、飲食店の新しいビジネスモデルの一つになるのではないかとの提案です。
廃棄ロスについては、「品数を絞る」「保存できる原料を使う」。オペレーション費用については、「スタッフ人数の削減」「オペレーションの効率化(食器の統一など)」。
結果として行き着いたのは、単品料理で勝負する専門店です。
・材料が全て保存食品(黒胡椒・卵・ベーコン・チーズ・半生麺・塩)で廃棄コストがゼロ
・仕込みが不要
・「キッチン担当」と「片付け担当」の2名で運営できる
以上の点などから、「立ち食いのカルボナーラ専門店」の優位性を訴えました。
また、実は新井さん、パスタを週5で5年以上食べ続けているほどのパスタ好き。
のちの質疑応答の時間でも、「ぼくがパスタのこと話し始めたら、あと4日くらいは喋り続けられるんですけど。。。」という言葉が飛び出るなど、終始パスタ愛にあふれたプレゼントとなりました。
そして、「まず1つ目の質問」という田端信太郎の言葉で始まった、質疑応答タイム。
「仮にこの業態が成功した場合、参入障壁自体はとても低いから、すぐに類似のお店が出てくると思うんだけど、そのときの新井さんのカルボナーラ専門店の優位性は、何になる?」
これに対し新井さんは、「ぶっちゃけ言うと、あんまりないんですよ」と割り切って答えつつも、間を置かずに話を続けます。
「ただ、ひとつ挙げるとしたら、材料の例えばベーコンを豚肉の段階から仕入れて、加工の段階を非公開にするのは大事ですね。どこの養豚場のお肉を使っていて、どう加工しているかを本部側が持つことで、チェーン展開したときのスケールメリットと、『そこのお店でしか食べられない』理由を強くすることができます」
と、中長期的な展開も見据えた回答をしました。
次に2つ目として、田端信太郎が挙げたのは、
「飲食業界って、すごく競争の激しい市場だから、いま新井さんが言ってくれた内容は、すでに別の人がいままで思いついたことがあると想定するのが妥当な気がするんだけど、その人はどうして参入しなかったと思う?」
との質問。
これに対して新井さんは、「パスタのなかで、且つカルボナーラっていう単品勝負まで絞り切ることのリスクが取れなかったんじゃないかなと思います」とキッパリ。
プレゼンや質疑応答の時間で新井さんの口から随所に飛び出す、ラーメン次郎やサイゼリア、洋麺屋五右衛門、CoCo壱番屋などの、他社事例の豊富さと各事例の情報量の多さが、今回の発表に懸ける新井さんの本気度を物語っていました。
そして、3名全ての発表が終わったところで、結果発表へ。
新井氏がMVP!|田端「実際にやってみてと言ったときに『はい』と返す準備ができている」
選ばれたのは、3人目の発表者、新井勇作さんでした!
審査委員長の田端信太郎からは、「提案の解像度が高かった」や「実際にやってみてと言ったときに『はい』と返す準備ができていると思った」などの賞賛コメント。
Twitter上でも公開されている、新井さんのプレゼン全スライドはこちらから見ることができます。
5回目の定例会発表にて獲得した、念願のMVPでした。
2019年3月から参加した #田端大学 、敬愛する大前研一さんの「企業参謀」が課題図書の回でやっとMVPになれました♬
— 新井勇作 / ®︎ONE PHOTO (@arai_yusaku) July 30, 2020
「MVPになる準備はできている」
と臨んだ今日の定例会は過去4回以上に緊張しました。お時間を頂いた皆様、プレゼンターのお二方、そして田端塾長ありがとうございました! https://t.co/APygZ31OOS
「マジレスの応酬」でしのぎを削る田端大学
このように田端大学では、塾長の田端信太郎はもちろん、メンバー同士でもマジレスをして、お互いを高め合っています。
今回のような新規事業の立案に対するフィードバックだけでなく、みなさんが普段されているビジネス業務への解像度が高まるような議論も、田端大学では行われています。
新しい事業を立ち上げたい!ビジネスへの解像度を高めて、普段の仕事で活かしたい!という方は、ぜひ田端大学のなかをのぞいてみてください!
執筆:藤本 けんたろう