
やりすぎジョブ型育成の末路。「個性を活かす」を言い訳にして、チームの歪みを無視した結果・・・
「ジョブ型雇用」という言葉をよく聞くようになりました。ジョブ型の組織には、専門性の高い優秀な人材が集まる反面、ビジネス上の「ルール」「マナー」「お作法」といった教養が軽視されがちだという落とし穴があります。
たかが教養、されど教養。ビジネスマンとしての基礎を無視したチームでは、最終的に組織が機能しないという最悪な状況を招きかねません。
テクニカルスキルだけを追究し組織が崩壊・・・
こんにちは。田端大学公式メディア「BIG WAVE」のライター、りゅうじんと申します。
実は私には、「ジョブ型」を推進した結果、管理する部署を崩壊寸前にまで追い込んでしまった経験があります。しかし、ある対策により危機を脱することができました。この実体験を、同じ悩みを持つマネージャーの方々にお伝えします。
私はある企業で、部長という役職についています。そこでは研究開発を行っており、経理・総務関連の仕事をする1名以外は全て研究者です。
研究者などの専門職の人によくあることですが、技術者としては優秀である反面、コミュニケーションスキルや後輩の指導力が弱いといった傾向があります。例にもれず、私の部署のメンバーも同様の傾向がありました。
部長になってしばらくは、「研究者としての各メンバーの個性を活かす」という言い訳のもと、研究以外の指導をそれほど重視していませんでした。
正直に告白すると、パワハラなどと騒がれやすい中、日々の業務態度に問題があるメンバーを「それも個性」として放置していました。
しかし、その結果、人間関係がしだいにギクシャクし、研究業務に支障が出るようになりました。部の崩壊が始まっていたのです…
一流のサラリーマンに必要な3つのスキルとは?
そこでどのように対応したかというと、まず一流のサラリーマンに求められるスキルをおさらいしました。ハーバード大学教授のロバート・カッツ氏は、ビジネススキルは以下の3つに分類できるといいます。
1.テクニカルスキル(業務遂行能力)
職場でそれぞれの業務を正しく遂行するための能力。営業職では、交渉力や効果的なクロージングの方法、研究開発職であれば専門分野の知識や装置の取り扱い方、実験系を組み立てるスキルになります。
2.ヒューマンスキル(対人関係能力)
職場のチームメンバーと円滑なコミュニケーションをとり、業務をスムーズに遂行するための良好な関係構築・維持するためのスキルです。
3.コンセプチュアルスキル(概念化能力)
ロジカルシンキング(論理的思考)やクリティカルシンキング(批判的思考)を使い、「本当に重要なものは何か?」という本質を見極めるスキルになります。
※カッツモデルのイメージ
この3つの中でテクニカルスキルは、日常業務中でのOJTや目標管理制度を使って伸ばしすいのですが、「ヒューマンスキル」と「コンセプチュアルスキル」は意識して指導しないと習得しづらいです。
問題を洗い出し部署を立て直すには、まずは各メンバーの「ヒューマンスキル」の向上が最優先だと考えました。
「当たり前」のことを改めて教えることの重要性
「ヒューマンスキル」を指導するために、何から始めようかと色々と指導書となる本を調べました。しかし、専門的なものが多く、今のメンバーの指導書とはなりにくいと思いました。
そんな中、私が活用したのが「これからの会社員の教科書」(著:田端信太郎 SBクリエイティブ)です。
私の世代の人間が読むと、「こんなのは当たり前だ」と思う内容ですが、改めて考えてみると、この本で書かれていることこそ、今のメンバーに足りてないことが多いことに気づきました。
そこで、実際にこの「これからの会社員の教科書」を文字通りの教科書にして毎月1回研修を行いました。
特に注力したのが次の5項目です。
・「礼儀」は巡り巡って自分を守る
・「感じのいい人」が生き残る
・「正しい意見」が通るとは限らない
・服装ぐらいで損をするのはもったいない
・嘘をつくと挽回が難しい
「これからの会社員の教科書」より
改めて自分のチームを危機感を持って見渡したとき、まず「正しい意見が通るのは当然だ」と信じすぎている傾向が強いことに気がつきました。
専門性の高い人は、各自が自分の主張に確固たる自信を持っています。それは素晴らしいことではありますが、それぞれが主張をぶつけ合うだけでは何も解決せず、人間関係だけが悪くなってしまうことが多々あります。
そこでまずは、「正しい意見でも通らないことがある」という前提を知ってもらうことから始め、それから「事前に想定される反論への対処法」を考える訓練をしました。
具体的には、本番の会議に備え発表資料を確認する際に、想定される反対意見とその意見に対する自分の考えや必要なデータをまとめた資料も合わせて準備してもらうようにしました。
これを繰り返すうちに、各自が「主張の仕方」や「反論に対する返答」に工夫をするようになり、不必要な衝突が少なく、スムーズに決定まで導けるようになりました。
また、評価を意識しすぎて研究結果を自分の都合の良いように解釈したり、結果をごまかす癖のあるメンバーについては、「嘘をつくと挽回が難しい」ことを徹底的に教えました。
一度、ごまかすような発言をすると次からの研究データの信ぴょう性が薄くなり、部署のメンバーや仕事に絡む人からの信頼を失うと仕事を進めることすらままならなくなります。
このような取り組みにより、メンバー間の人間関係が次第に改善し、お互い協力して仕事をするようになり、目標を達成できる組織に生まれ変わりました。
「これからの会社員の教科書」は良い指導書になる
「ビジネス上での基本作法やルールは、先輩社員や上司の背中を見て習得すべき」という考えで、ヒューマンスキルの低いメンバーを放置していると私のような危機が訪れる可能性があります。
今回、部下のヒューマンスキルを向上させるために使った「これからの会社員の教科書」は、部下の育成に悩む管理職におすすめの本です。
実際に研修というカタチで取り入れてみて気づいてきたことですが、ビジネスの世界で当たり前だとされていることを、若い世代のメンバーたちはこれまでに教えられたことがないのだと気付きました。
できないのではなく、知らない。そんなメンバーにとっての最初の一歩としてとても役に立ちました。
また、田端大学では、田端信太郎や様々な企業で働く管理者や起業家との交流からマネジメントのヒントを探ることもできます。
私は管理職になり自分が働く会社内に指導、指摘してくれる人がほぼいなくなり成長が鈍っていることに不安がありました。そんな中、田端大学では他の会社の同じ立場の人たちから多くの刺激、学びを得ることができています。
文:りゅうじん